張本智和は水谷隼を超えたのか
2019年3月3日に行われたジャパントップ12において、張本選手は水谷選手を4-0で圧倒しました。張本選手は、本当に素晴らしい選手だと思います。成績や世界ランキング、中国人選手との戦いぶり、試合後のインタビュー、どの切り口からも類稀なる逸材です。
そして卓球業界は彼の活躍の恩恵を受け、大変盛り上がっています。業界の外でも若き天才の活躍から元気をもらう人は多いでしょう。
お会いできたら「本当にありがとう」とお伝えしたい。
しかし、その一方で私自身は「張本選手が水谷選手を超えた」という話を聞くたびに、少し違和感を覚えます。
今、張本選手と水谷選手が戦ったら、多くのケースで張本選手が勝つのかもしれない。
水谷選手本人がそのような発言をしているから“そう”なのでしょう。
しかしながら、「=もう水谷選手よりもすごい」としてしまうのは短絡的ではないか。
「グーはチョキに勝てるから、グーはチョキよりもすごい」と言われている感じがしてしまう。
たとえば水谷選手vs張本選手という構図に“パー”の存在を追加してみましょう。
仮に世界を代表するカットマン・朱世赫選手(韓国)を加えた3人で競わせたケース。
イラストの技量はさておき、これならイメージが湧きやすいのではないでしょうか。
もちろん、「基準をどこに置いた、誰の主観で語った内容なのか?」によって結論付けは変わると思います。
また、私の違和感を含め、主観は基本的に偏るもの。
だからこそ、少し違った観点から一石投じてみたいと思います。
大きくはこの3項目です。
① おかれた環境の違い
② タイプによる違い
③ 相性について
代表的なところでは、このところ故障で調子を落としている(もしくは出場していない)中国ビッグ3の馬龍・張継科・許昕。彼らは水谷選手と完全に同世代です。
一方で、張本選手の戦っている(きた)相手はピークアウト気味の名選手(上記の選手を含む)や育成中の選手が多い印象です。
2) 年齢によるプレイサイクル
世界ランキングの話もよく出てきますが、張本選手と水谷選手は年齢が14歳も違います。
若いエネルギーを武器に、とにかく多くの試合を行って、対策されても乗り越えたほうが収穫の多い若きホープ。
ITTFのランキング制度も試合参加数が多い人ほどポイントが高くなるよう変更された今、世界ランクだけでの判断は少し難しいのではないでしょうか。
3) ルール改正の影響
プラスチックボールの採用によってプレースタイルは大きく変わりました。説明は省略しますが、前陣についてカウンターを狙ったほうが得点につながりやすくなっています。
張本選手は未成熟な段階(小学校高学年)でボールが変更されているので、そんな変更にも順応しやすい。
歳は少し上になりますが、女子の伊藤美誠選手・平野美宇選手・早田ひな選手なども、キャリアの初期にルール変更されているので「プラ・ネイティブ」とギリギリ呼んでもいいかもしれません。
こうしたプラ・ネイティブの選手たちは自身の技術・戦術、そしてそれらを作り出す練習が、よりプラボールに適応したものになっています。
上記の選手たちが類稀なる選手たちであることに間違いはありません。
坂本竜介さんや岸川聖也選手をはじめとする当時の若手スター選手の多くも、ドイツ留学というレバレッジ(テコ)の力もあり、活躍の場を広げることとなります。
「パフォーマンスの波が大きい張本選手、小さい水谷選手」※イメージです
張本選手は台上技術からカウンターを狙う、完全に前陣に特化した選手。台上技術で相手の手を防ぎ、そのまま押し切ります。
対する水谷選手は前陣・中陣・後陣のすべてでプレーをするザ・オールラウンドです。ある一定相手の手を封じながらも、テリトリー内を泳がせて、点を取れるシチュエーションを様々な領域で作って勝つタイプ。
しかし、基本的に水谷選手はフォアハンドの選手。パワーの節約しながらコントロールに重きを置いた水谷選手のバックハンドは、フォアハンドとマッチアップするのには向きません。パワーを出そうとすれば、フォアハンドとのバランスが悪くなったり、スイングそのものが崩れたりします。
張本選手だけに勝つことを目指すなら修正する可能性はありますが、ビッグゲーム(特に東京2020)での金メダルを狙う水谷選手が倒すべき相手は他に多くいます。そのため、「すべてを張本対策に!」という選択するというのは“ない”でしょう。
2) 水谷選手の台上の緩急が効きにくい(特に“緩”)
水谷選手の台上は緩急に富んでいて、本当につかみどころがありません。特に、ディフェンスが大変優れているからこそつかえる“緩”が際立っています。
しかし、他の選手に比べると張本選手は台上で前に入っていくのが早く、強烈なフォアフリックとチキータで”緩”のボールを狙ってきます。
長文ながら簡単にまとめたため、本当に語りたい部分を大幅に省略しています。省略してしまった部分に関しては後日改めて更新していきたいと思います。
※張本選手と朱世赫選手の相性について想像がつかない方は、マレーシアで行われていたT2APACの様子をYoutubeなどでご覧ください。
もちろん、「基準をどこに置いた、誰の主観で語った内容なのか?」によって結論付けは変わると思います。
また、私の違和感を含め、主観は基本的に偏るもの。
そして主観以外には数字に残る内容を比較するしかないから“しょうがない”部分もあるかもしれない。
だからこそ、少し違った観点から一石投じてみたいと思います。
大きくはこの3項目です。
① おかれた環境の違い
② タイプによる違い
③ 相性について
① 2人のおかれた環境の違いについて
1) 戦ってきた相手
水谷選手が戦ってきた相手と、張本選手が今戦っている相手は実は違います。
水谷選手は常に自分の先輩や同世代のレジェンド級プレーヤーのピーク時に対して試合を重ねてきました。
水谷選手が戦ってきた相手と、張本選手が今戦っている相手は実は違います。
水谷選手は常に自分の先輩や同世代のレジェンド級プレーヤーのピーク時に対して試合を重ねてきました。
代表的なところでは、このところ故障で調子を落としている(もしくは出場していない)中国ビッグ3の馬龍・張継科・許昕。彼らは水谷選手と完全に同世代です。
他には、今も現役のトッププレーヤーですが、サムソノフ・ボル・荘智淵などがもっと元気な状態。
引退した選手では、王励勤・馬琳・王晧の中国の世界チャンピオン勢に加え、オリンピック金メダルの柳承敏(韓国)なども大きな壁として立ちはだかっていました。
一方で、張本選手の戦っている(きた)相手はピークアウト気味の名選手(上記の選手を含む)や育成中の選手が多い印象です。
特に、少し上の先輩たちや同世代の中国勢にヒーローが少ない。これは張本選手の「vs中国」の勝率を引き上げている要因にもなります。
2) 年齢によるプレイサイクル
世界ランキングの話もよく出てきますが、張本選手と水谷選手は年齢が14歳も違います。
若いエネルギーを武器に、とにかく多くの試合を行って、対策されても乗り越えたほうが収穫の多い若きホープ。
一方で、体力の維持が大変になってくる時期となり、必要な時に最大のパワーを出せるよう年間スケジュールを調整する準ベテラン。
ITTFのランキング制度も試合参加数が多い人ほどポイントが高くなるよう変更された今、世界ランクだけでの判断は少し難しいのではないでしょうか。
3) ルール改正の影響
プラスチックボールの採用によってプレースタイルは大きく変わりました。説明は省略しますが、前陣についてカウンターを狙ったほうが得点につながりやすくなっています。
張本選手は未成熟な段階(小学校高学年)でボールが変更されているので、そんな変更にも順応しやすい。
私は勝手に、こうゆう環境で育った人を「プラ・ネイティブ」と呼んでいます。
※張本選手(15歳)のポテンシャルから考えれば、今を「成熟状態」とは言えませんが。
歳は少し上になりますが、女子の伊藤美誠選手・平野美宇選手・早田ひな選手なども、キャリアの初期にルール変更されているので「プラ・ネイティブ」とギリギリ呼んでもいいかもしれません。
こうしたプラ・ネイティブの選手たちは自身の技術・戦術、そしてそれらを作り出す練習が、よりプラボールに適応したものになっています。
上記の選手たちが類稀なる選手たちであることに間違いはありません。
ですが、「環境適応度」の違いによって有利になっている側面が少なからずあります。
新たなルール変更があれば状況は大きく変わる可能性があるため、「選手としてのボリュームが先輩たちを完全に超えた」としていいのか微妙なところもあるのです。
ちなみにですが、実は水谷選手も自身が小学校高学年の時に、ボールが変更(38mm→40mm)され、その後に先輩たちを圧倒して世界で活躍するようになっています。
ちなみにですが、実は水谷選手も自身が小学校高学年の時に、ボールが変更(38mm→40mm)され、その後に先輩たちを圧倒して世界で活躍するようになっています。
坂本竜介さんや岸川聖也選手をはじめとする当時の若手スター選手の多くも、ドイツ留学というレバレッジ(テコ)の力もあり、活躍の場を広げることとなります。
女子に話を移せば福原愛さんが水谷選手の1つ上、石川佳純選手は3つ下。同じく先輩たちを若いうちから倒していくことになります。
これらの選手も自身の若手時代にボール変更の恩恵を享受してきたのです。
育成方法・体制の変化など、他にもたくさん要因はあるものの、ルール変更は少なからず選手のプレーやキャリアに影響していくのです。
※こちらについて、3月19日にブログを更新しました。
詳しくは「ボールの変更と選手のキャリア」をご覧ください。
② 2人のタイプの違い
「パフォーマンスの波が大きい張本選手、小さい水谷選手」※イメージです
張本選手は台上技術からカウンターを狙う、完全に前陣に特化した選手。台上技術で相手の手を防ぎ、そのまま押し切ります。
相撲でいえば、張り手をかまして一気に寄り切るタイプというイメージでしょうか。
対する水谷選手は前陣・中陣・後陣のすべてでプレーをするザ・オールラウンドです。ある一定相手の手を封じながらも、テリトリー内を泳がせて、点を取れるシチュエーションを様々な領域で作って勝つタイプ。
前回は横綱相撲で組んでくれたのに、いきなり叩き落としてくるみたいなことをするタイプです。
リスキーにカウンターを狙う選手はオールラウンドな選手よりも、変化に弱い傾向が出てしまいます。
リスキーにカウンターを狙う選手はオールラウンドな選手よりも、変化に弱い傾向が出てしまいます。
一方で、環境や自身のコンディションが良いとき、リスキーな特化型の選手はパフォーマンスが強烈に上がります。
一般的に、最高成績や最高の一打が印象に残るため、パフォーマンスの波のトップが高い張本選手は“すごい”と認識してもらえる成績が残りやすいのです。
③ 2人の相性について
張本選手には「水谷隼対策として生まれたのではないか」と思ってしまうほど最高の相性です。
“球があっている”みたいな話になると、つかみどころがなくなるので、今回は技術的な相性について構造を解説します。
また「バックハンドが強くて、左利きのフォアに気持ちよく抜けていく」という部分はあまりに月並みなので、それ以外について言及します。
“球があっている”みたいな話になると、つかみどころがなくなるので、今回は技術的な相性について構造を解説します。
また「バックハンドが強くて、左利きのフォアに気持ちよく抜けていく」という部分はあまりに月並みなので、それ以外について言及します。
大きくは2つ。
1) 水谷選手のバックが張本選手のフォアとマッチアップするのに”△”
張本選手のバックに打てば強烈なバックハンドで左右に振られてしまいます。そうなると、狙うべきはフォアになります。
※なぜ狙うべきがフォアなのかは大島祐哉は張本に対して何をしたのかをご参照ください。
1) 水谷選手のバックが張本選手のフォアとマッチアップするのに”△”
張本選手のバックに打てば強烈なバックハンドで左右に振られてしまいます。そうなると、狙うべきはフォアになります。
※なぜ狙うべきがフォアなのかは大島祐哉は張本に対して何をしたのかをご参照ください。
しかし、基本的に水谷選手はフォアハンドの選手。パワーの節約しながらコントロールに重きを置いた水谷選手のバックハンドは、フォアハンドとマッチアップするのには向きません。パワーを出そうとすれば、フォアハンドとのバランスが悪くなったり、スイングそのものが崩れたりします。
張本選手だけに勝つことを目指すなら修正する可能性はありますが、ビッグゲーム(特に東京2020)での金メダルを狙う水谷選手が倒すべき相手は他に多くいます。そのため、「すべてを張本対策に!」という選択するというのは“ない”でしょう。
2) 水谷選手の台上の緩急が効きにくい(特に“緩”)
水谷選手の台上は緩急に富んでいて、本当につかみどころがありません。特に、ディフェンスが大変優れているからこそつかえる“緩”が際立っています。
世界的にも際立った緩のうまさが急を引き立てている印象です。
しかし、他の選手に比べると張本選手は台上で前に入っていくのが早く、強烈なフォアフリックとチキータで”緩”のボールを狙ってきます。
水谷選手の“緩”がことごとく狙われてしまうとなると、急もセットで効きにくくなるわけです。
以上のことから、張本選手は水谷選手に勝ちやすくなっています。ですが、それは環境や相性あってのこと。
以上のことから、張本選手は水谷選手に勝ちやすくなっています。ですが、それは環境や相性あってのこと。
「張本智和は水谷隼を超えたか」という問いへの私自身の見解は、現段階で”NO”です。
長文ながら簡単にまとめたため、本当に語りたい部分を大幅に省略しています。省略してしまった部分に関しては後日改めて更新していきたいと思います。